お客様の中にお医者様がいる確率、そこにもゴルゴ、それぞれの未来

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」と聞かれたとき、実際にお医者さんがいる確率はどれほどのものだと思いますか? 今日は、「1人はいる」という確率は意外と高いのだなあ、ということについて考えます。

「ねえー、ああいうのってうまく言えないけど、あたしすごーく好きー、感動したー」
 帰り道、私がそう騒ぐと、親友も同意した。
「うん、カッコ良いよな。俺も思った、なんていうか……」
「なんていうか?」
「なんていうか、ホラよく飛行機の中で急病人とかが出て、『私が医者です』っていうのがあるだろ? ああいうカンジだよなッ」
 そうそう、そういうカンジなのである。

鷺沢萠途方もない放課後』より

スチュワーデスさんが「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」と聞いてまわるというのは、よく聞くセリフです。いや嘘です。私は、一度も聞いたことはありません。ともあれ、ああいう場面で、都合よく「私が医者です」と名乗り出てくるというのは、ちょっとご都合主義やしないか。現実にはそんなことないのではないか。私はそう考えておりました。

ところが、ある航空会社のデータによると、急病人が発生したとき、医療関係者が平均89パーセントの確率で搭乗しているというからびっくりです。本当でしょうか。

ちょっと計算してみます。

OECDによる日本の医療の現状(pdf、英語)を見ると、日本における開業医の数は人口1000人あたり1.9人、看護師(準看護師も含んでいるようです)は7.8人です。この数字ってOECD平均よりも低いんですかー。意外でした。

ともかく、日本でランダムに1人の人間を選んだ場合、その人が医療関係者である確率は1000人あたり9.7人ですから、0.97%ということになります。

さて、次は航空機の平均乗客数のデータがほしいです。機種を限定したデータならけっこうあるのですが、全世界平均というものはないようなので、「Mr.さりえりのブログ」さんの見積もり、185人を使います。これは、1日の旅客数400万人÷(24時間÷飛行機の離陸間隔4秒)で計算されたものです。ボーイング747だと乗客数500人超えたりしますけど、まあ、全体ではこんなものでしょうか。

では、計算です。いきなりずばっと式を書きますと、1-(1-0.0097)^185=0.8352ですから、83.52%。おお、実測値に近い。やっぱり、正しいのか。

こっから、日本の医師数は世界平均より低い、とか、医者のほうが金もってるから飛行機に乗りやすい、とかいう感じで数値を補正していけば、実測値にせまりそうです。というわけで、「お客様の中にお医者様(正確には医療関係者)が乗っている確率は9割近い」、というのはほぼ事実なのでした。ちなみに医師に限定しても、30%ぐらいの確率はありますよ。

しかし、意外だなあ。

似たような確率の錯誤として、誕生日のパラドックスというものもあります。詳しくはリンク先参照ですが、大ざっぱに言うと、23人の学生がいるクラスで、「このクラスに誕生日が同じ学生がいるかいないか」で賭けをするとしたら、どちらに賭けるのが有利か? という問題。答えは、「いる」ほうです。マジっすか。23人つったら、365の6%ほどしかないですが。

どうも我々は、組み合わせの数が大きくなると確率を正当に評価できないようです。すなわち、「多数のものの中に1個だけあればいい」という条件は、実はとても緩いのですが、人間の感覚はそう感じないようにできている、と。

例えば、友人が死の前日に夢枕に立つ、というのはそりゃマレなことでしょう。確率0.0001%ぐらいかもしれません。しかし、100人の人間が60年生きるとしたら、チャンスは219万日あるわけで、こんな低確率の出来事でも88.2%の確率で発生します。つまり、身のまわりに1人ぐらい、友人が死の前日に夢枕に立った人がいてもおかしくはないということです。

ドロズニン『聖書の暗号』というトンデモ本があります。聖書の文字列を何文字か置きに拾っていくと、聖書に隠されたメッセージが浮かびあがってくる!という本らしいです。

もうお分かりかと思いますが、この方法だとはっきり言って膨大な組み合わせ方があるわけです。ですから、自分の望ましいメッセージの1つや2つ隠れているのが当たり前です。例えば、このドロズニンの方法で、ラビン首相を暗殺したのは、「オレの後ろに立つな」で有名な日本人スナイパーであったことが分かったり、しかもその事件に日本のある意外な集団がかかわっていたんだよ!なんだっ(ryということが証明できてしまうわけです。詳しくはリンク先をどうぞ。

考えてみると、185人というのは、1学年の人数ぐらいでありますでしょうか。地域・時代によりますが、だいたい、ある年代に自分の身近にいる人間の数と言ってよいだろうと思います。それぐらいの規模の集団であれば、ちょっと変わった職業の人(もしくは、将来そうなる人)、というのが確実に1人はいるわけです。そういう目でまわりの人々を見てみるのも面白いかもしれません。