諸君!私はやっぱり猫が好き、ボーイズラブと上様、風に乗る
「諸君、私は〜が好きだ」という言いまわしはネット上にどのぐらい種類があるのでしょうか? それは「やっぱり〜が好き」の場合とどんな違いがあるのでしょう。今日は、「やっぱり」という言葉の使い方を調べることで、世間の風を読む意識について考えます。
「やっぱり」とか「やはり」というこの慣用語は、じつは、その恐怖(引用者注 日本という同質社会の中で仲間外れにされる恐怖)を無意識のうちにいいあらわしているのである。日本人が何かについての意見を聞かれたときに、やたらに「やっぱり」や「やはり」を連発するのは、「私が思っていたとおり」という予言的な、つまり、自信に満ちあふれた立場の表明ではなく、「あなたをはじめ、みんながそう思っているように」「世間一般の人たちが考えているように」自分もそう思う、という意味の「やっぱり」なのだ。だから、テレビやラジオのインタビューでマイクを差し出されて意見を求められたときに、ほとんどの人が「やっぱり」をつい連発してしまうのである。それは無意識のうちに世間におうかがいを立て、自分の意見がけっして人並み外れた考えではなく、世間のみなさんとおなじように自分もそう考えます、ということを弁明する強調詞だといってもいい。
だとすれば、数多くの日本語の中で、「やっぱり」、あるいは「やはり」という慣用語こそ、何より日本的な性格を正直に告白している言葉といえないであろうか。
私はこの言葉こそ、日本の主語だと思う。「自分はこう思う」というときの主語は、むろん、その意見を発表する「自分」である。だが、「やっぱり」とか「やはり」という言葉をさしはさむときには、「自分」という主語のほかにもうひとつ、「日本」という、あるいは、「世間」という大主語が無意識のうちに予想され、前提されているのだ。
かつて「やっぱり猫が好き」というTV番組がありました。もし森本の言うとおりであれば、あれは「世間一般の人たちも猫が好き」という意味だったんでしょうか。そう言われてみれば、そんな気もしてきました。
このことについて考えるために、Googleで「やっぱり が好き」を検索し、上位500件の検索結果から、「やっぱり好きなもの」として出てきた単語を調査をしてみました*1。タイトルや本文に重複して出て来たものは1回だけ数えています。3回以上出現したものを以下に示します。数字は出現回数です。
猫×98、本×22、犬×19、ボーイズラブ×13、亀戸×12、株×10、海×9、ピアノ×8、馬×7、あなたも地図×6、野球×5、パン×5、ネコ×4、競馬×4、空×4、たて×4、貴方×4、イヌ×4、コレ×3、旅行×3、ラーメン×3、ばか×3、文具×3、物理×3、ウチ×3、パリ×3、タイ×3、音楽×3、お芝居×3、生×3
なるほど、やっぱり「やっぱり猫が好き」が最多のようです。続いて、2回出現したもの。
荒川さん、トルエン、日本酒、ヴィト、上様、ミステリー、cat、自転車、青、T、竜、シダ、"エロ"、白、hayden、ブス、千趣会、待つ方、伊豆、タイガース、アウトドア、袋、美脚、コーヒー、京都、カモメ、多摩、君、ジャイアンツ、ラマ、クマ、寿司、龍馬、NARUTO、ナンシー、おもちゃ、バカ映画、PSO、麻雀、お金、キャンプ、仙台、バラ、聡美さん、宮崎、河内さん、ギャンブル、“ライオン”、建築、ネット、おやじロッカー、車、日本の桜の方、カレ、これ、鷹、カナ、くま、機能別組織、いぬ、バイク、ぴよ、辞書、ガンダム、“木”、羊
うーん、どうなんでしょうか。この結果をもって「やっぱり」の用法を「世間一般の人たちが考えているように」と言っていいのでしょうか。「あなたをはじめ、みんながそう思っているように、やっぱりボーイズラブが好き」ってことで、森本先生的にはOKなんでしょうか?
出現回数2回の単語を見ても、「トルエン」「上様」「シダ」「ぴよ」など、世間一般とか言う以前に「何それ?」って感じのやつも入ってます。もちろん私とて、改めて「お前は上様が嫌いか?」と涙目で問われると、強く否定するほどでもないですけど、しかし明日の職場で「やっぱ上様最高っすよ!」という話題が盛り上がると考えるほど夢見がちでもありません。ていうか「上様」って最初だれか分かんなかったですし。まあ、あの人しかいないんですが。
むしろ、このような「やっぱり」は、世間の空気を読んだうえで、自分の嗜好がそれと相容れないことを重々承知しつつ、しかしやむにやまれぬ愛情の発露を表現した言葉と考えるべきでしょう。「やっぱり彼女のことがあきらめきれない」という言葉も、客観的な情勢としてもう関係修復は無理だと分かりつつもしぼり出された言葉です。
つまり、「世間では〜だけど」という用法。この意味で、「やっぱり」は、「逆接」的に「世間」という大主語が前提されているのではないでしょうか。森本の言うことは半分ぐらいあってる気がします。
もっとも、「やっぱり好きだ」と言われるものたちは、やっぱり世間一般で好きだとされているものが多いことには間違いはなさそうです。これは「諸君、私は が好きだ」で検索して出てきた結果と比較すると非常に鮮明です。
まずは、Google上位500件の中で、3回以上「諸君、私は〜が好きだ」と言われた単語のリストです。なお、単語にはすべてGoogleへのリンクが貼ってあります。
戦争×45、〜×22、プログラミング×13、○○×7、ゆかりん×7、Fortran×7、ツンデレ×6、ほにゃらら×6、Ruby×5、無断リンク×4、モーニング娘。×4、ブッシュ×4、腐女子叩き×4、kegKJxxS×4、スポーツ少女×4、仮装戦記×4、ギャルゲー×4、C言語×4、原稿×4、職場×4、志摩子さん×4、糞スレ×4、音楽×3、ソニー×3、マリア様がみてる×3、メタル×3、日本×3、読売新聞×3、漫画×3、大原さやか様の声×3、ガラナ×3、大原さやか様×3、vi×3、MDプリンタ×3
なかなか面白いですね。ついでですから全部転記しておきます。出現回数2回。
Haskell、京阪奈新線、キルア、キン肉マン、「お菓子」、妹、NFL、カレー、はてな、あかり、仙台、回転レンズ、PSO、ロードレース、神岸あかり、靴、OVA「HELLSING、南大東島、ファミコン、Peugeot106、京都、..諸君、私はコミケ、モビルスーツ、花穂、オセロ、東宝映画の怪獣、システム開発、Zope、テッサ、ボーボボ、AMESPO、アイちゃん、コンパイル、CounterStrike、コメットさん☆、もっちー、パイプスモーキング、女性、J1、女の人、豆、休講、冬目景、TOUGHBOOK、エクスデス様、月刊OUT、クソ漫画、ファミレス、UNIX、仏教哲学、タイピング、クソ漫画、コミケ、チャレ、ストIII、Sybase、サムチャイ、プロテクトギア、シューティング、官庁訪問、タジミハ、AMESPO大好きだ。NHL、クズニュース、スクウェアの女ザコ、Mozilla、ニコン、ループ、デフレ、腐女子、単車、98、エウレカセブン、ボク娘、ふにふに抱き枕、PT、男根、女の子、巨乳、論争、月姫、NHK、氷帝、妄想、跡千、三国無双
出現回数1回。
COBOL、T&T、任天堂、>>1、鶉、イベント、川澄舞、琢磨逸郎、精液、Adobe Illustrator、黒キュア、ギリシア悲劇、Gジェネ、Civ3、就活、民主党、吸血、師匠、ゆかり、霧、ムスカ、BIS、金糸雀、花火、ヴィオラ、(・∀・)ウズーラ、美少年、WindowsMe、ベーキング、センチ、おっぱい、BD、ロイ・マスタング、短髪、投機、回転寿司、Core2、ピンボール、プロトタイプベース、FSS、アイドル、女装、シグナム、私的録音録画補償金、糞譜面、2ログ、トラパス、人形、スクリャービン、百合、T&T、SFC版風来のシレン、聖闘士星矢、サイコロ、亀梨和也、バカ映画、三浦あずさ、浪漫、ドラえもん、素子、ケンタッキー、大砲、ファルコム、トンデモ、巫女さん、W3C、ボボボーボ・ボーボボ、オヤジ、メロンパン、量的緩和、STG、おっさん、Perl、ツンデ霊、メタルサーガ、夏厨、月代彩、大修館書店、ローゼン、ガンダムが、Gジェネ、山内さん、秋色、実験、ダイス、「吉宗」、神、珍獣、雪合戦、遠弓、ラーレラさま、セックス、山陽、参院、羽物、お姉さん、風呂、ヤフー、Smart、Firefox、ヘタレ、ガンダム、水曜どうでしょう、地方競馬、アイマス、SF、メイド、クスハ、うにゅう、どうでしょう、うずら
なんか、この日記の方向性がものすごい速度でゆがんだ気がしますが、ともかく、考察を続けます。「諸君、私は〜が好きだ」の検索結果からまず分かる凡庸な感想は、人が好むものとは、かくも多様である、ということでしょう。「諸君〜」がもともとそういう混沌とした文化の中にあることを考えても、この豊穣さは驚異です。
翻ってみると、「やっぱり〜が好き」で「好きだ」とされた語のチョイスは実にヌルイと言わざるをえません。オーラストップと100点差でテンパイしたのに、安牌中抜きしてる場合じゃない。そこはリーチだろと。「ボーイズラブ」や「上様」は、だいぶ危険球であったように見えましたが、それでも、その単語に対する理解が世間一般にあるということを前提にできる程度の単語です。
えーと、実はこのあと、はてなの人気記事とただの新着記事の間で、「やはり」「やっぱり」の使用頻度がどう変わるかの調査をしようと思っていたのですが、ちょっと時間がなくなってしまったので、今回はここまでといたします。
というわけで、いったん結論を出しますと、森本は「やっぱり」の用法について「世間のみなさんとおなじように自分もそう考えます」という意味であると指摘しましたが、どうもそう単純な話ではないようです。
「やっぱり」という単語を使うとき、我々は、世間一般の風を読み、しかし、その風に単純に迎合するわけではなく、風に対する自分の立ち位置の確認という作業をしているようです。これはこれで別にいいんじゃないでしょうか。自由に飛ぶためには、別に風を切る必要はなく、風に乗れればいいんですから。
また、私は、「それがどんなものかはみんなが知ってるものなんだけど、でもその魅力を知っているのは自分だけだー」という意識が「やっぱり〜好き」にはあるような気がします。「猫」が「やっぱり好きなもの」のダントツトップにあるのもなんとなく分かります。
やっぱり言葉は面白いです。