御先祖様は何人いるか、日本沈没、母が魂蛍と成りて

父母は2人、祖父母は4人、曾祖父母は8人。この調子で増えていくととんでもないことになりそうですが……。今日は、御先祖様は何人いるかということについて考えます。

こどもたちよ、
おまえたちは何をほしがらないでも
すべてのものがおまえたちに譲られるのです。
太陽のまわるかぎり
譲られるものは絶えません。

輝ける大都会も
そっくりおまえたちが譲り受けるのです、
読みきれないほどの書物も。
みんなおまえたちの手に受け取るのです、
幸福なるこどもたちよ、
おまえたちの手はまだ小さいけれど――。

世のおとうさんおかあさんたちは
何一つ持っていかない
みんなおまえたちに譲っていくために、
いのちあるものよいもの美しいものを
一生懸命に造っています。

河井酔茗『酔茗詩抄』「ゆずりは」より

大変有名な詩ですので、ご存じの方も多いでしょう。河井酔茗「ゆずりは」の一節です。

文明・文化の大いなる遺産だけでなく、何よりこの身体からだ、この命は父母から譲りうけたものです。そして、いつか私たち自身が譲る側になっていく。果てることなく世界はめぐります。

しかし、私たちにこの素晴らしい世界を譲ってくれたのは、もちろん父母だけではありません。父と母にはまた父と母がいたわけです。祖父母を含めれば、全部で6人の先祖が、私を、今ここに存在させるために命のリレーをしてくれたのです。

いや、まてよ、祖父母にはまた父母がいるじゃないですか。ちょっと計算してみます。

1世代25年としまして、500年さかのぼったとすると、自分の代を除いて19世代。倍々ゲームで先祖が増えていくわけですから、2の19乗を計算します。52万4288人。おおっ、すごい数だ。コミケ一般参加者がだたいたい40〜50万なので、たとえるなら東京ビッグサイトを埋める御先祖様の大群が……いや、これはたとえがよくないか。

1000年前ならどうでしょう。5497億5581万3888人。おおっ、今の世界人口余裕で超えました! このときの日本の人口密度は、145万人/平方km。だいたい、1メートル四方に1.5人の人間がいる計算です! 落ちつかねえ!

がんがんいきます。1500年前をやってみます。57京6460兆7523億0342万3488人。寄藤文平ウンココロ』によりますと、人間の1回のウンコの量が200gだそうですので、御先祖様が全員がウンコしたら、11万5300立方kmです。1発で日本が深さ300mメートルのウンコの中に沈没します!

もうええっちゅう感じですが、ちまちまやるのも面倒なので、一気に4000年ぐらいさかのぼってみます。もう人数書かなくていいと思いますが、だいたい御先祖様の体重だけで銀河系の総質量を越えます。当然、御先祖様は自己重力によって崩壊し、ブラックホールへと縮退していくものと思われます。

すいません。調子に乗りすぎました。現実には、こんなに先祖がいるはずはないですね。それは、御先祖様に重複があるからです。例えば、聖徳太子の父用明天皇と、母穴穂部間人皇女あなほべのはしひとのひめみこは兄妹ですので、聖徳太子には祖父が1人しかいません。

このような重複を考慮して先祖の人数を数えるのは、ちょっと難しそうです。遺伝学には近交係数という遺伝子の重複の度合を表す指標がありまして(例えば兄妹婚だと1/4)、これが使えるかなと思ったのですが、この数字は地域や調査法によって、だいぶ変化するようなのでいまいち確度の高い計算方法が分かりません。

まあ、適当に見積もることにしましょう。日本の人口の推移に関しては、社会実情データ図録のもの使うことにして、ここに記載のない数字は、一次直線で補完します。で、御先祖様はその年代の人口から重複ありでランダムに選ばれるものとします。例えば、ある世代に100人御先祖様がいたら、その1つ前の世代から200人の御先祖様を選びます。ただし、重複を許すので200人より減るだろう、という感じです。1世代は25年としました。

結論ですが、このシミュレーションですと、だいたい1500年ぐらいまでは御先祖様は倍々ゲームで増えていくのですが、そのへんを過ぎると人口(この時点で1000万ぐらいです)が天井となって増加は頭打ちになります。ある年代の御先祖様の数は最大でも700万人を越えることはありませんでした。

累計(現代からさかのぼった合計)の御先祖様数ですが、1500年時点で200万人、1250年時点で5600万人、1000年時点で1億1000万人、750年時点で1億6000万人ぐらいでした。現実には、結婚相手は同一地域に限定されることが多いので、近親婚が多いだろうということ、それから、今回は御先祖様を全人口からランダムに選びましたが、実際は年齢による制限があることなどから、実数はこの8割がけぐらいになりそうです。

というわけで、奈良時代ぐらいまでさかのぼって、御先祖様の総数はせいぜい1億2000万人ぐらいかと。もしや、今の日本の人口と同じぐらいなのか!? ……偶然、でしょう、たぶん。