日本最初のツンデレは誰か、47人のツンデレ、ツンデレは心の中に
「お嬢様言葉」について語ったからには、この話題も避けて通れますまい。ツンデレです。以前、ほんの小ネタで「ツンをデレにする理論」などを書きましたが、今回は本格的にいきますよ! 今日は、日本最初のツンデレについて考えます。
吉田に一泊して、あくる日、御坂へ帰って来たら、茶店のおかみさんは、にやにや笑って、十五の娘さんは、つんとしていた。私は、不潔なことをして来たのではないということを、それとなく知らせたく、きのう一日の行動を、聞かれもしないのに、ひとりでこまかに言いたてた。泊った宿屋の名前、吉田のお酒の味、月夜富士、財布を落したこと、みんな言った。娘さんも、機嫌が直った。
「お客さん! 起きて見よ!」かん高い声である朝、茶店の外で、娘さんが絶叫したので、私は、しぶしぶ起きて、廊下へ出て見た。
娘さんは、興奮して頬をまっかにしていた。だまって空を指さした。見ると、雪。はっと思った。富士に雪が降ったのだ。山頂が、まっしろに、光りかがやいていた。御坂の富士も、ばかにできないぞと思った。
「いいね。」
とほめてやると、娘さんは得意そうに、
「すばらしいでしょう?」といい言葉使って、「御坂の富士は、これでも、だめ?」としゃがんで言った。私が、かねがね、こんな富士は俗でだめだ、と教えていたので、娘さんは、内心しょげていたのかも知れない。
まず引用したのは教科書にも掲載された『富嶽百景』です。ここで「十五の娘さん」が「つんとしていた」と表現されています。「つん」という言葉は、「突く」の連用形「突き」が変化した形であるとされ、「つんと」という形では江戸時代に既に用例があります。
この「ツン」が「デレ」に変化する瞬間というのは、なかなかよいものです。では、いわゆるツンデレキャラの日本における元祖はいったい誰か? これが今日のテーマです。
そもそもツンデレとは何か?というのが、かなり深遠なテーマである(らしい)わけですが、まずは、ネットで「ツンデレの元祖」「初代ツンデレ」とされたキャラを検索して概観をつかむことにします。すると、出るわ出るわ。とてつもない数です。私が確認できたものだけリストアップしておきます。作品の初出年代の新しいほうから順にならべてあります。
なお、このリストは、あくまでネットにある意見をまとめただけです。「なんでこのキャラがツンデレなんだ。そもそもツンデレとは……」という議論を私にふっかけるのは勘弁してください。
ゼオラ・シュバイツァー(スーパーロボット大戦、2002)、沢近愛理(スクールランブル、2002)、秋葉(月姫、2000)、芝村舞(ガンパレード・マーチ、2000)、ディードリッド(ロードス島戦記-英雄騎士伝-、1998)、アスカ(新世紀エヴァンゲリオン、1995) 、ゼフェル(アンジェリーク、1994)、ナコルル(サムライスピリッツ、1993)、田中美沙(同級生、1992)、美神令子(GS美神 極楽大作戦!!、1991)、飛影(幽☆遊☆白書、1991)、白鳥麗子(白鳥麗子でございます!、1989)、パイ(3×3EYES、1987)、天道あかね(らんま1/2、1987)、シルヴィア姫(夢幻の心臓II、1985)、ベジータ(ドラゴンボール、1984)、鮎川まどか(きまぐれ☆オレンジロード、1984)、ルゥリィ(スプーンおばさん、1983)、海原雄山(美味しんぼ、1983)、雪野弥生(1000年女王、1980)、音無響子(めぞん一刻、1980)、マチルダ(機動戦士ガンダム、1979)、ラム(うる星やつら、1978)、モンスリー(未来少年コナン、1978)、テラ(未来少年コナン、1978)、メーテル(銀河鉄道999、1977)、宗方コーチ(エースをねらえ!、1973)、ジャイ子(ドラえもん、1969)、ジャイアン(ドラえもん、1969)、ベラ(妖怪人間ベム、1968)、パー子(パーマン、1966)、怪子(怪物くん、1965)、サファイア(リボンの騎士、1953)
なんで私は休日使ってこんなことやってるんでしょうか。それはともかく、「元祖」という条件つきで検索したのに、ここまで多種多様な意見があるというのは驚きです。ツンデレは、ひとりひとりの心の中にいる……そう言っていいのかもしれません。なんか今、無駄にかっこいいこと言ったな。
なんでベジータがツンデレなんだ?と思う方もいらっしゃるでしょうが、「勘違いするなよ、おまえがヤツに負けたりなどすればオレがヤツに劣ると言うことになってしまうからな」とか言いながら、主人公を助けるあたりがツンデレっぽいんだそうです。なるほど。
それから、「ツンデレの元祖はネコ!」という意見も多数ございまして、個人的にはもっともだなあと思いつつ、今回は人間に限定させていただきます。あと、「毒蝮三太夫(1936年生)はツンデレ」という声もありまして、大変捨てがたい意見だったのですが、ちょっと違う気がしましたので、リストからは外させていただきました。
実は上記のリストは、サブカルチャーに限定したものですが、それなりに納得のいくリストになっているかと思います。というわけで、漫画・アニメ・ゲームにおけるツンデレの元祖は、手塚治虫『リボンの騎士』(1953年)のサファイアということで、よろしいでしょうか? 個人的にも妥当なところかと思います。
さて、実はネット上ではもっとディープなツンデレ探求の旅が行われております。海外の名作小説にツンデレを求める方々もいらっしゃいました。
マーガレット・ミッチェル『風とともに去りぬ』(1936年)のスカーレット・オハラ、スタンダール『赤と黒』(1830年)のマチルド、シェイクスピア『リア王』(1604年?)のコーデリア、シェイクスピア『ヴェニスの商人』(1594年?)のポーシャなどです。いずれもツンデレラーを首肯せしめる面々ではないでしょうか。
では、ツンデレの元祖はシェイクスピアなのでしょうか。日本が世界に誇るべきツンデレも、"the greatest writer of the English language"(Wikipedia英語版によるシェイクスピア評)の前にはひれふすしかないのか!?
しかし、さらなる深みに入っていく人々がいました。
まずは「上杉謙信(1530年生)はツンデレ」。信玄に塩を送るあたりですね。なるほど。いや、なるほど?
さらに「日本における初代ツンデレは北条政子(1157年生)らしいぜ」という意見も、説得力があるような気もします。尼将軍と呼ばれたあたりがツンで、承久の乱で御家人をくどき落としたあたりがデレなんですかね。
他にも、
「アマテラスは引きこもり、紫式部は腐女子、清少納言はブログ女、紀貫之はネカマ、かぐや姫はツンデレの起源です。」という声もありました。腐女子といったら
なるほど、竹取物語のかぐや姫は、ツンデレの有力候補です。なみいる求婚者たちに無茶苦茶な要求をつきつけるあたりはツン爆発と言えます。書かれたのは平安時代の前期とされますから、日本最古の名にふさわしいでしょう。
しかし、肝心の帝に対する態度はツンもデレもちょっと弱いかなーという感じがします。まあ、天皇絶対の当時の常識からすれば、これでも十分ツンなのでしょうが。「ツンがデレになる」になる、という感覚がやや希薄なのが致命的な気がいたしますが、どうでしょうか?
ここで、ツンデレを成立させるための物語の条件について考えてみます。まず、ツンデレの理想の比率はツン9割、デレ1割という声があります。それを考えると、ある程度、女性の心理描写のボリュームがある物語でないと、ツンデレは成立しないでしょう。そうなると、女性が主人公であるとか、恋物語でないときつそうです。和歌でツンデレを表現するのは難しいでしょう。
日本最初の物語と言われるのは「竹取物語」です。それ以降の日本の代表的な文学作品をたどってみると、まず「伊勢物語」があります。これはかなり有力な感じです。実際、「伊勢物語」の藤原高子はツンデレという意見もありました。
しかし、個人的な意見を申しますと、伊勢物語は男性視点の物語ですから、女性の心理描写はやや弱いのではないかと思います。個人的に、伊勢物語でツンがデレに変わる話で好きなのは、二十四段の
それから「大和物語」「宇津保物語」「落窪物語」などがありますが、ツンデレ要素はありますでしょうか? 私にはぱっと思いつきませんが、ここは識者のご指摘をいただきたいところです。
となると、いよいよ、大本命「源氏物語」(1001年?)です。ネット上の意見では、「
まず、葵の上は源氏の正妻でありますが、当初は「行儀をくずさぬ、打ち解けぬ」(
その後、葵の上は懐妊、しかし、源氏の愛人である六条御息所の生霊に悩まされるようになります。出産直前になって、葵の上の病状はますます悪化。加持祈祷も効果がありません。そんなとき、葵の上は、源氏を枕元に呼びます。発熱にほてった表情で、葵の上は源氏を見上げます。
「平生は源氏に真正面から見られるととてもきまりわるそうにして、横へそらすその目でじっと良人を見上げているうちに涙がそこから流れて出るのであった。」(葵)
ツン→デレ、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! ということで、その後、葵の上は無事夕霧を出産。源氏は「なぜ自分は長い間この人を飽き足らない感情を持って見ていたのであろうか」と反省するのです。ところがっ、この直後に葵の上は死んでしまうのですね。うーん、完璧だ。
というわけで、当ブログとしましては、日本最初の、いや、源氏物語が世界最古の長編小説とされることを考えれば、世界最初のツンデレは、葵の上であると認定したいと思います。「ツンデレのいる場所は紫式部はすでに千年以上前に通過しているッ!」という感じでしょうか。
もっとも、今回は万葉集などの和歌集については、まったく考慮しませんでした。「ツンデレなど